橋本治が「小林秀雄の恵み」の第一章から第二章にかけてでいうのは以下のようなことである。小林秀雄が「古事記」を読みたいを思って、それなら宣長の「古事記伝」かなと思い、読んでその感想を折口信夫にいったら、折口信夫は「本居さんは源氏ですよ」といったきり消えてしまう。その後に、宣長の奇怪な遺書の話になる。なぜまず遺書がでてくるのかといえば、この遺書がわけのわからないものであり、宣長を論じだす前にそれを片づけてしまわないと、本論に入れないからだと、橋本氏はいう。『私に興味があるのは、宣長といふ一貫した人間が、彼に、最も近づいたと信じてゐた人々の眼にも隠れてゐたといふ事である』(p19)という部分だけが小林秀雄にとっては必要であったのだ、と。そして、この文のあとは、「本居宣長」では以下のように続く。『この誠実な思想家は、言はば、自分の身丈に、しつくり合つた思想しか、決して語らなかつた。その思想は、知的