日記の書き手は、まことにわがままに書く。その結果はいちじるしく反=日本語的な文章になる。日記の文章の、この文章規範を無視した日本語の面白さこそ、じつはいちばん読んでいただきたいところなのである。 (10頁) ヨーロッパの日記を研究して大部の本を書いたグスタフ・ルネ・ホッケはこう言っている。「日記を読むことは、混乱を我慢することだ」。すっきり筋道だった書き方をしている日記なんてない。 (11-12頁) 鴨下信一『面白すぎる日記たち』(文春新書042、1999)からの引用である。史料をパズルのピースに例えれば、そのピースは大体、いびつな形をしているのが普通である。きれいな形をしていないからといって、即、偽造されたものと考えるわけにはいかない。 またパズルのピースが全部そろっているわけでもない。数が足りず、しかも、いびつなピースによって、歴史にアプローチしなければならないのである。 日記の場合、