◇池内紀(おさむ)・評 ◇『「日本の住宅」という実験--風土をデザインした藤井厚二』 (農山漁村文化協会・2800円) ◇80年前にエコハウスをつくった建築家 たぶん知る人はいないだろう。藤井厚二という建築家がいた。大学で教えながら、自分の考える「日本の住宅」をつくった。考えを具体的に示すために、自宅をモデルルームにした。八十年あまりも前のこと。考えに共鳴した人々の依頼のもとに、数十の美しい住居が生まれ、そのいくつかは、今もかわらず暮らしの場になっている。 明治二一(一八八八)年、広島県福山の生まれ。生家は土地で知られた素封家で、幼いころから絵画や書、茶道具に親しんだ。東京帝国大学工科大学(現東大工学部)で建築を学び、卒業後、竹中工務店を経て京都帝国大学の講師、助教授、ついで教授。昭和十三(一九三八)年、直腸ガンにより死去。四十九歳だった。 早い死はべつにして、ごく恵まれた生涯である。聡明