京極夏彦の百鬼夜行シリーズの『鵼の碑』(ぬえのいしぶみ)が、ついに発表された。なんと17年ぶりの新作である。この期間に『百鬼夜行 陽』(2012年)、『今昔百鬼拾遺 鬼』(2019年)など、同シリーズの短編集や外伝的長編は、複数刊行されていた。しかし、古本屋を営むとともに陰陽師の拝み屋でもある中禅寺秋彦が活躍するシリーズの本筋である長編の新作は、『邪魅の雫』(2006年)以来となる。同作刊行時、次作のタイトルは『鵼の碑』とすでに告知されていたのだから、ずいぶん長く待たされたものだ。 1954年(昭和29年)の物語である。榎木津礼二郎が開いた薔薇十字探偵社で仕事する益田龍一は、勤め先の薬局の主人・寒川が失踪したので捜してほしいと御厨冨美から依頼される。寒川は、20年前に日光で事故死した父について調べていたらしい。日光から一度戻った際に彼は、「碑が燃えていた」と謎めいたことをいったという。 一