悲しさや悔しさではない。心の奥底の感情が、そのまま噴き出したとしか表現できない涙。そんな涙を流して嗚(お)咽(えつ)する“老人”の姿を見たのは、生まれて初めてだったかもしれない。 3月26日から約20日間、被災各地を巡った。 岩手県大槌町の中央公民館では、避難者らの暮らしを取材した。震災から約1カ月が過ぎ、住民らは不自由ながらも避難生活に慣れてきていた。その半面、震災当初の緊張が薄れ、避難所には疲労と倦(けん)怠(たい)が侵食してきているように見えた。消されたテレビ。薄暗がりの中に響く、くぐもった話し声。一日中横になったままの人々…。この傾向は、特に高齢者に顕著だった。 「退屈ではないか。何か必要なものはないか」。避難者らにそう聞いて回った。そこで出会った道又康司さん(79)は「食事も毛布もあり、何の不自由もなく過ごしている。不満などない」という。「そんなものなのかな」と安易に納得してしま