[Part1] [米国・マサチューセッツ州] 黒いエプロンには、数式があしらわれていた 肉を焼く。たれを煮詰める。ゼリーを作る。 料理本には「焦げ目をつける」「とろっとするまで」「ゼラチンを加える」などと書いてある。 同じ現象は、こんなふうにも表現できる。 それぞれ、熱伝達、粘性、弾力性を表す数式だ。 私たちが日々接している料理の背後には、こんな物理や数学が隠れている。 2010年度、料理を使って科学にアプローチする講義「科学と料理」が、米国・ハーバード大で始まった。担当したのは応用数学と応用物理の教授たち、そして世界各国の有名シェフだ。学内でも有数の人気で、300人あまりの定員に初日には約700人が詰めかけたという。 昨年末、最後の講義をのぞいてみた。 開場前、階段教室のドアを開けると、ほんのりと香ばしい香りが広がる。 黒板の前で、日本食や創作料理などで知られ、ミシュラン・ガイドの二つ星