疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。 産んでもいない子を育て上げたような気がしていた。彼らがもうずいぶんと大きくなったので、もういいやと思った。疫病が流行した、この春のことである。 もちろんそれはわたしの子ではなく、わたしはいまだ二十代で、子どもたちは十七と十五の女の子と男の子で、わたしの弟妹である。 わたしの母は十代でわたしを産んだ。十代の母としてはずいぶんと立派だったと思う。彼女はわたしを背負ったまま手に職をつけ、同じく手に職をつけていた若い夫であるわたしの父とともに、せいいっぱい働いた。 彼らはわたしが十三の時に、乳幼児だった弟妹を残して死んだ。ばかだなとわたしは思った。夫婦そろってさんざっぱら働いてようよう手に入れた店で火事を出して、それで死んだ。火が出たらとっとと逃げたらいいのに、店を守ろうとしたのだと聞いた。わたしは警察に呼ばれて両親を確認した
朝ごはんの支度をしていると息子に「しゃーしんがなくなったんだけど」と言われた。しゃーしん。すこし間をあけて、ああ、シャーペンの芯かと分かった。 学生の頃は私もシャーペンの芯をしゃーしんと呼んでいたころがあったと思うが、久しぶりに聞いた。しゃーしん。あとで買いに行ってきなよと伝えた。 明日の古紙回収に出すのに新聞やチラシをまとめて、冷蔵庫の上に置いてある丸く巻いてあるビニールロープを取ってむすんだ。ビニールロープはまた冷蔵庫の上に置いて、それから冷蔵庫を開けてお茶を取ろうとしたらビニールロープが落っこちてきて頭にガツンと当たった。おお……。 目撃していた娘が「うちの冷蔵庫のドアの幅ってお母さんが思っている以上に厚いんだよ。だから上に物を乗せるときは奥に置かないと落ちるよ」と教えてくれた。娘は先日冷蔵庫の上に置いてあるガムテープやロープを片付けてくれたので良く知っている。 午後、息子がしゃーし
麦戸ちゃんはさいきん学校にこない。麦戸ちゃんの家は大学のすぐ近くにあるから、七森は二限終わりに寄ってみようかなと思ったけど、きのう彼女ができたばかりだったし、共通の友だちでも女の子と家で会うのを白城は嫌がるかもしれないと(まだそういうことを確認する段階にもなっていないけれど)思って麦戸ちゃんにはラインだけした。 だいじょうぶ? 明日には緊急事態宣言が発令されるらしい。(4月6日時点) まさかこんな事態が訪れるなんて思ってもみなかった。こんなディストピアSFのような世界が現実になるなんて。 何が怖いかって、知らぬ間に自分も感染者になって、他人にうつしてしまっているのではないかという思いが、常に頭から離れないことだ。 被害者が加害者になる。現実社会ではめずらしいことではない。 いじめやパワハラをされた人が、別の相手にいじめやパワハラを行ったり、虐待を受けて育った人が、大人になると子どもに虐待を
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