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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (33)

  • だからあなたと出会わなかった - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。だからわたしはこの夏、あの外国みたいな街角で、あなたと出会わなかった。 わたしは退屈な大学生で、だからあの街を歩いていなかった。疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出されていたから、わたしはだまっておうちにいた。だからわたしはそこにいなかった。 そこは繁華街で、時代時代でニュースとかが言う「若者の街」のうち最近注目されはじめたところで、わたしは大学一年生で、音楽をよく聞いていて、外国とか好きで、英語をけっこう話せて第二ないし第三外国語がちょっとできて、流行とかもぜんぜん好きで、だから、わたしはそこに、いなかった。 だって、東京は疫病とオリンピックのために大学生が軽薄に出歩くことのできる街を残していないことになっていたから。 わたしは良い子で、だからずっと、おうちにいた。おとうさんとおかあさんといっ

    だからあなたと出会わなかった - 傘をひらいて、空を
  • ゲームとたき火 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。そのために外出せず遊べるゲームが人気である。僕は据え置き型のゲーム機を起動しっぱなしにしている。そうして仕事から帰ると(仕事はわりとすぐオフィス通いが復活した。ダイニングテーブルで仕事していて腰が死にかけたので正直ちょっとうれしい)スリープ状態から戻す。 子どものころは人並みにゲームの世界にのめりこんだ。とはいえ僕はを読むのも好きだったし、少し大きくなってからは自分で近所のTSUTAYAに行って映画を借りたりもしていた。フィクションの中に入れるのなら字でも映像でもいいやという、わりと雑な子どもだったように思う。 しかし現在の僕のゲームの目的はフィクションへの没入ではない。ドラクエとかが出れば、これはまあお話だよなと思う。思うけど、今や僕はもっと現実的な物語のほうが好きだし、ファンタジーでもちょっとひねりがあるほうが好み

    ゲームとたき火 - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/09/25
    なんか読むといつも眼の奥からじんわりとこみ上げるんですよね。
  • 都心のスケッチ - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。わたしの自宅である麻布十番近辺の人通りはおそろしく減った。それから少し戻り、また落ち着いた。ここは繁華街とも住宅街とも言い切れず、古くからある町工場も残っていて、どうにも「こういうエリアです」と言い切れない。都心ではあり、しかし交通の便がよいとはいえない。そうして典型的な夜の街である六木から徒歩圏内である。六木にたむろする連中は徒歩でなんか来やしないが。 わたしの自宅は施設に引っこんだ祖母から借りているもので、古いが手入れは行き届いている。というかわたしが維持のための手入れや事務作業をしている。家賃は身内価格で十万円、管理費として二万円が割引かれ、わたしの支払いは月八万円である。 わたしが子どもの時分、十番は陸の孤島で、母に連れられて祖母の家に遊びに行くときには都バスを使っていた。移動距離は一桁キロなのに、「おばあち

    都心のスケッチ - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/08/26
  • ステイ、ホーム、ステイ - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているので不要不急の外出が禁じられた。そのためにわたしは血眼で自宅にいながらしてできる賭けを探している。 公営ギャンブルや商業的なギャンブルはやらない。わたしにはそれほどおもしろく感じられないからだ。小銭を賭けて胴元に一定額を巻き上げられながら勝つの負けるのと言ったってしょうがないと思う。娯楽としてやる人はそれでいいのだろうが、わたしの賭けは娯楽ではない。人生の必須栄養素である。 わたしは人様に金融商品をすすめる仕事をしている。すすめた銘柄が上がればわたしの勝ちである。確実に上がることなどない。質的には根拠がない。ないからいいのだ。わたしは会社のカネで賭けごとをやれるから仕事をしているのである。一部の顧客や上司からは「果敢なリスクテイカー」として過分な評価を得ているが、正常なリスクテイカーは「やむをえないと考えてリスクを取る判断力と度胸がある」というような人種だろう。わたしは

    ステイ、ホーム、ステイ - 傘をひらいて、空を
  • パンとコーヒーとアフリカの夢 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。誰がどうみても「よぶん」でない最後の聖域は料品と日用品の買い出しである。 僕はカフェを経営している。そしてわりと空気を読むタイプである。空気を読んで早々に業態を切り変えることにした。テイクアウトのみの営業にし、店内での事のためにつくっていたパンも売ることにした。パン屋です、みたいな顔をしていれば命のコーヒーコーヒー豆を売る場を保つことができる。僕はそう考えて小麦粉を大量に仕入れ、パンを焼いて焼いて焼きまくった。 僕は恐れている。国家と自治体とそれから近隣の、よくわからない相互監視を恐れている。近隣の個人商店同士のあいだにも自粛度合いを監視する動きがある。「良い子にしていない者は排斥するべきだ」という空気が醸成されつつある。「良い子」の基準はない。ないからどんどん用心深くなる。なにしろ、不要不急に見える外出をすると

    パンとコーヒーとアフリカの夢 - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/05/06
    Best regards,
  • 子育てを終える - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。 産んでもいない子を育て上げたような気がしていた。彼らがもうずいぶんと大きくなったので、もういいやと思った。疫病が流行した、この春のことである。 もちろんそれはわたしの子ではなく、わたしはいまだ二十代で、子どもたちは十七と十五の女の子と男の子で、わたしの弟妹である。 わたしの母は十代でわたしを産んだ。十代の母としてはずいぶんと立派だったと思う。彼女はわたしを背負ったまま手に職をつけ、同じく手に職をつけていた若い夫であるわたしの父とともに、せいいっぱい働いた。 彼らはわたしが十三の時に、乳幼児だった弟妹を残して死んだ。ばかだなとわたしは思った。夫婦そろってさんざっぱら働いてようよう手に入れた店で火事を出して、それで死んだ。火が出たらとっとと逃げたらいいのに、店を守ろうとしたのだと聞いた。わたしは警察に呼ばれて両親を確認した

    子育てを終える - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/04/08
    「どちらに行かれるんですか?ずいぶん大荷物ですけど。」
  • オホーツクに行く - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。渡航するべきでない国がひとつひとつ指定され、ほどなく私用の海外旅行は事実上不可能になった。職業上の理由による渡航も大幅に制限された。要か不要か判断しにくい渡航をした者は見つかり次第インターネット上で激しい非難にさらされ、勤務先の電話が鳴り続ける、そういう世の中になった。 僕は外国に行くのが好きで、だからときどき外国での職務があってうれしかった。たとえ短期の滞在でも、私的な時間がほとんどなくても、知らない町を歩いているだけで僕は簡単に幸せになることができた。ほんの少し前のことなのに、今となっては昔話である。 恐慌は当然のようにやってきた。そりゃそうだ。疫病で外出が制限されたら経済は停滞する。買い物だってそんなにしなくなる。僕の会社にもじわりじわりとその影は落ちた。僕らの仕事はゆっくりとその足を止め、うずくまった。リモートワ

    オホーツクに行く - 傘をひらいて、空を
  • 不要不急の唇 - 傘をひらいて、空を

    疫病が流行しているのでよぶんな外出を控えるようにという通達が出された。わたしたちは必要なものを買いに行くふりをして外出した。わたしと彼の給与の財源はともに税金である。だからわたしたちは行儀よくしていなくてはならない。そうでないと職場に苦情がいく。 近所にはわたしと彼の職業の詳細を知る人が幾人もいる。だからわたしは「市民感情」において満点をたたき出す役人でいなければならず、彼は「生徒の模範となる」教師のようにふるまわなければならない。いつも。わたしたちの素性を知る人の目があるところでは、二十四時間、いつでも。 わたしたちはガーゼマスクをつける。わたしたちは手をつながず、あまりくっつきすぎないように気をつけながら歩く。わたしたちは公共の場で失礼にならない程度の、しかし華美ではない服を着ている。どこの家庭にも必要な買い出しのためだけに外出していると、誰が見てもそう思ってくれるだろう。 でもわたし

    不要不急の唇 - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/03/11
    SFだ
  • さよなら、わたしのシモーヌ - 傘をひらいて、空を

    シモーヌとは十四年のあいだ一緒に暮らした。シモーヌは冷蔵庫である。名の由来は冷凍庫に霜が降りることであった。わたしの家に来る友人たちが「いまどきそんな冷蔵庫があるのか」と話題にし、誰からともなくシモーヌと呼びはじめ、わたしもその名を使うようになった。 シモーヌはわたしと出会った段階ですでに新しい冷蔵庫ではなかった。大学を卒業して寮を出るとき、一人暮らしをやめる友人からもらったのである。大学生の一人暮らし用としては大きめのサイズだった。わたしは自炊をするのでありがたく貰い受けた。 はじめて一人暮らしをした部屋の中のものはみんな貰い物だった。家具も家電も買った覚えがない。そうした大物にかぎらずわたしはよくものを貰う人間だった。貧しかったからかもしれない。自分では「愛されているからだ」と言っていた。わたしを嫌いな人からは「乞の顔をしているからだ」と言われた。正直なところ、どちらでもかまわなかっ

    さよなら、わたしのシモーヌ - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/03/04
    お疲れさまでした。
  • 生存税の納入 - 傘をひらいて、空を

    差し歯がそろそろ限界です、と歯科医が言う。歯科衛生士がうなずく。わたしは彼らの説明を聞く。今の歯はどれくらい入れていますか、と歯科医が尋ねる。わたしは指折り数えてこたえる。八年もちました。いい子ですねと歯科衛生士が言い、孝行です、と歯科医が同調する。 わたしの上顎のにっこり笑って見える歯はみんな作りものである。原因は家庭内の暴力だが、わたしは純粋な被害者ではない。いわゆる暴力の連鎖というやつで、わたしは加害を防ぐために人間を椅子で殴り、別の人間がわたしの顔面を壁にたたきつけた。あれから二十年が経過したが、いまだにたぶん全員自分が正しいと思っている。正当なことをした、しかたがなかった、そう思っている。生まれた家の自分のほかの人間には十代のころから会っていないから実際はどうだか知らないが、賭けてもいい。誰も反省していない。わたしも反省していない。誰も懲りない。わたしが生まれた家は、そういう場所

    生存税の納入 - 傘をひらいて、空を
  • だから代わりに泣いてあげるの - 傘をひらいて、空を

    お正月? うん、いつもどおり帰省したよ。この年になるとこっちが親の保護者みたいなもんよ。ほら、わたしは、遅くにできた子だしね。それで今年は父に運転免許を返納させてきた。そりゃあもう、たいへんだったんだから。 そりゃあ人はいやに決まってる。うちは、田舎といっても市内だし、車なんかなくても実はどうにかなるんだよ。ちょっと不便ではあるけどね。でもその不便さもタクシーを使えば解消できる程度のものでしかない。そして車の維持費はタクシー代とは比べものにならないほど高い。 父が運転免許と自動車を維持したがっていたのは、だから、結局のところ、利便性の問題じゃないの。彼らにとっては、えっと、彼らというのは、わたしの知る田舎の年長の男性たちのことなんだけど、あの人たちにとっては、運転免許と自家用車は「最低限のプライド」なの。 なぜだかはわたしにもよくわからない。自動車に何かを仮託しているのかもしれない。同じ

    だから代わりに泣いてあげるの - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2020/01/08
    “たとえば自分の代わりに泣いてくれる誰かを人生で獲得できなかったら、老いて衰えたときに、ガレージ以上のものを壊してしまうんだよ。”
  • 僕らは世界をハックする 二人目 - 傘をひらいて、空を

    シンガポールのオフィスははじめからすぐにたたむつもりだったから一年間使い切りの契約にしていた。学生時代のやんちゃが思ったより早く飛び火したので海外にまで出るはめになった。正直なところ、計算違いをした。 個人で使うカネなんかたかが知れている。俺ははじめから大それた資産は望んでいなかった。そんなに野心的なたちじゃないんだ。大富豪になりたいんじゃなかった。巨大な権力(カネは一定量を超えると権力になる)は巨大な責任を生じさせる。俺はそんなものはほしくなかった。 ほどよくアッパーで、ちょうどいい余裕があって、人よりも優雅だけれど、抜きん出すぎて孤独になることなく、上等な連中とつるんでいられること。そして誰も知らない資産を持っていること。それが俺の好みだった。どうして誰も知らない資産が必要かというと、不安や不確定要素を抱えているとQOLをそこなうので、一般人の範疇で人のうらやむ暮らしをしながら社会の変

    僕らは世界をハックする 二人目 - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2019/12/25
    嘘と伝聞とほんとうの、、、
  • 僕らは世界をハックする 一人目 - 傘をひらいて、空を

    自分の頭の良いのは知っていた。僕には兄がいて、両親は兄にも僕にも熱心に時間とカネをかけたけれど、僕のほうがはるかに勉強がよくできたし、習い事やスポーツのたぐいもそつなくこなし、人間関係上も強者だった。兄はべつに落伍者なのではない。平均よりはずっといい。僕があまりにすぐれているのだ。 そんなわけで、僕は天性の才覚を前提として、じゅうぶんに資を投下され、必要な時に必要なコストをかける(勉強するとか、見た目を整えるとか)手間暇も惜しまなかったので、現役で東京大学に入った。そうして、地頭、コミュニケーション能力、外見、生まれ育ちなどにおいても、自分が同級生の中で上位クラスに入ることを確認した。その年のうちに彼女を三人取り替え、学生サークル四つに顔を出してばかばかしくなってやめた。三年生になったころにはベンチャー企業を立ち上げていた。 ベンチャー経営自体はたいしておもしろくなかった。せいぜい大企業

    僕らは世界をハックする 一人目 - 傘をひらいて、空を
  • 学歴ロンダリング成功したんですね - 傘をひらいて、空を

    あ、じゃあ学歴ロンダリング成功したんすね。 誰かが私の背後でそう言った。その発言の直後、聞き覚えのある声がこたえた。は? ロンダリング? それって不正なカネの洗浄を指すことばですよね? わたしが不正な学歴を洗浄したとでも? 振り返ると聞き覚えのある声の主は私の顔見知りの他部署の後輩なのだった。私の勤務先では昼休みの時間は比較的フレキシブルで、「だいたい十二時から二時くらいの間に一時間とってね」という感じなのだけれど、そのどまんなかの十三時に社員堂に行くと、たいてい知っている人がいる。 すげえ、と私は思った。「学歴ロンダリング」という物言いもなんだかすごいが、言い返した後輩のせりふはもっとすごい。よくもまあ咄嗟にそこまで言えるものである。口調もいい。「おまえはばかか」とゴシック体で書かれているみたいな完璧な軽蔑のトーンで、ほとんど平坦ながら声はきれいに通り、役者がせりふを読んだようだった。

    学歴ロンダリング成功したんですね - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2019/12/11
    オホーツク海に、沈められそう。
  • 大伯母の淑子さんの話 - 傘をひらいて、空を

    大正生まれのわたしの祖母は、零落した「いいおうち」のお嬢さんで、たいそうな美人であった。目鼻の配置がよく、皺の入り方が上品で、いつも姿勢がよかった。それでわたしは老婆にも美人がいることを子どものころから知っていた。 その祖母は、自分より姉のほうがもっと美しかったと言っていた。近所の写真学校の学生が拝み倒して撮ったという写真が一枚だけ残っていた。一人暮らしの祖母の部屋の棚の隅に、その写真はあった。わたしはその話を聞くまで、昔の映画スターか何かだと思っていた。彼女は若くして亡くなったのだと祖母は言っていた。若いうちに、結婚もせずに亡くなって、だから子どももいなかったのだそうだ。 一方、祖母は祖父と結婚した。祖父は「山師」だったという。あやしげな商売でひと財産つくり、いいところの(しかし世の変化でカネは尽きていた)お嬢さんとの見合いにこぎつけた、という寸法だったようだ。成金だったその男を、祖母

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  • 愛の永続性のなさに関する学習 - 傘をひらいて、空を

    甥っ子が駆けよってくる。生まれたときから毎週のように面倒をみていた可愛い甥である。現在三歳半だ。わたしは両手をひろげてかがむ。いつものように。すると甥はフルスイングでわたしの頬を平手打ちした。それからわたしに抱きついて泣いた。 なんだ、これは。 甥はわたしにしがみついている。甥の母親であるわたしの姉が叱りつけてもろくに聞いていない。びっくりしていると、甥は突然、夢からさめたように泣き止み、ふいとわたしのそばを離れた。姉が急いで甥を追いかけてつかまえた。 姉はとても正しい人間だ。わたしのような要領の良い人間から見るとときどき可哀想になるくらい、正しい人である。だから悪いことをした息子にあいまいな措置を講じることはない。子どもがわかろうがわかるまいが、低いフラットな声でひたすら理詰めにする。「何が悪かったか」「自分が悪かったと理解したか」「それに基づく謝罪をする気はあるか」という順番で詰める。

    愛の永続性のなさに関する学習 - 傘をひらいて、空を
  • 彼の人工的な盲点 - 傘をひらいて、空を

    トオルが十歳になったので、トオル一家および「トオル会」のメンバー五名でお祝いをした。内実はただのホームパーティである。トオルは私の学生時代のゼミの先輩の息子で、障害がある。トオルの障害があきらかになった段階で先輩は何人かの学生時代の友人を選んで、こんな話をした。 トオルは高い確率で、ひとりでいわゆる社会生活を送って寿命をまっとうするってことができないんだ。基は俺ら夫婦と公的支援だけでいける、でも祖父母は遠くてあてにならない、緊急時とかは厳しい、あと俺ら夫婦の精神がだいぶ削れる。ケアリソースが長期的に不足することは目に見えてあきらかだ。上の子にも影響があると思う。そういうわけでみんなにひとつよろしくお願いしたい。 せりふだけ書くとしおらしいけど、先輩のようすはぜんぜんそんなではなかった。「雨が降ったら洗濯物を取り込んでおいて」くらいの感じだった。 先輩は学生時代から変な人だった。たいていの

    彼の人工的な盲点 - 傘をひらいて、空を
  • 彼女は私をゴミみたく捨てる - 傘をひらいて、空を

    人間が精神的に乱れるのは思春期にかぎったことではない。人生の中で何度か起こりうる。そのときはできるだけいろんなリソースを使って立ち直るのがよいと私は思っている。だから昔の友人知人が連絡してきて不安定なようすであった場合、できるかぎり力になろうと思っている。 私だっていつ失職したり病気になったり災害に遭ったりするかわからないのだし、そうしたらきっと精神がだめな感じになるだろうし、そのときはまわりの人がきっと助けてくれるだろうから、そのぶん自分が健康なときには人を助けておきたいと、そういうふうに思うのである。人間の精神はそんなに丈夫ではない。だめになるときはなる。だめになるかならないかは持ち回りみたいなもので、いま私の精神がそこそこ健康に機能しているのは「たまたま」である。 彼女から連絡が来たのは三ヶ月ほど前のことだった。十年ぶりの連絡だった。彼女と私は学生時代の英語のクラスが一緒で、在学中は

    彼女は私をゴミみたく捨てる - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2019/10/16
    大好きなこのブログの記事を読んで「自立とは依存先を分配し増やすこと」という価値観をよく思い出す。
  • 主人は子煩悩じゃありませんから - 傘をひらいて、空を

    子どもたちがいっせいに笑った。読み聞かせが受けたらしい。読んでいるのはわたしの夫である。保護者会の後に子どもたちと保護者たちの交流の時間があって、その一環として読み聞かせの場がセッティングされ、わたしの夫が立候補したのだった。わたしがにこにこしてそれを見守っていると、顔見知りの保護者が、あらあ、と言った。レイカちゃんパパはほんとに子煩悩でいらして。ねえ。ほんとにねえ。 わたしはその保護者の名前を思い出す。沢田さん、と言う。こんにちはと言う。沢田さんは話し続ける。 レイカちゃんパパみたいな方、最近はいらっしゃるのよね。うちはそういうんじゃないから。主人ともよくそういう話してるんですよ。ほんとうにね、レイカちゃんパパは、子煩悩でいらっしゃって。 わたしの夫は娘を好きです。わたしはそう言う。そして混乱する。なんだろう、この人、何か、いやな感じがするんだけれど、それはなぜだろう。わたしの知らないと

    主人は子煩悩じゃありませんから - 傘をひらいて、空を
    steam-punk
    steam-punk 2019/10/08
    大好きなブログがホッテントリに
  • セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を

    仕事の都合で別の業種の女性と幾度か会った。弊社の人間が、と彼女は言った。弊社の人間が幾人かマキノさんをお呼びしたいというので、飲み会にいらしてください。 私は出かけていった。私は知らない人にかこまれるのが嫌いではない。知らない人は意味のわからないことをするのでその意味を考えると少し楽しいし、「世の中にはいろいろな人がいる」と思うとなんだか安心する。たいていはその場かぎりだから気も楽だし。 彼らは声と身振りが大きく、話しぶりが流暢で、たいそう親しい者同士みたいな雰囲気を醸し出していた。私を連れてきた女性はあっというまにその場にすっぽりはまりこんだ。私は感心した。彼女は私とふたりのときには同僚たちに対していささかの冷淡さを感じさせる話しかたをしていた。 どちらがほんとうということもあるまい。さっとなじんで、ぱっと出る。そういうことができるのである。人に向ける顔にバリエーションがあるのだ。私は自

    セフレですよ、不倫ですよ、ねえ、最低でしょ - 傘をひらいて、空を