二人が舞い戻った夕暮れ時の湖には珍しく人だかりが出来ていた。霧が晴れているとはいえ、このような幻想的な場所に人が群がっている光景は何ともぎこちなく感じる。 一体ここで何が始まるのだろう。真人はそう思いながらも敢えて訊こうとはしない。それは虎さんと口を利くのを怖れる、彼に対する嫌悪感は言うに及ばす、焦燥感に駆られた瞳の様子にも疑念を抱いていたからであった。 つまりは真人は未だ腹を括り切れていなかったという事になる。そんな真人の不安も他所に湖畔に佇む群衆の一人が真人に声を掛けて来た。 「いよいよ始まりますね、虎さんが気まぐれで行う花火大会が」 そう訊いた真人はなるほどとは思ったものの、何故気まぐれなのかという疑問も残る。花火というと一般的には夏を想定するものだが、この蜃気楼の町では季節がはっきりしない、無いといっても過言ではない。 そんな中で気まぐれだけで行われる花火大会、それも真人が四悪道を
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