店の正面まで来た。もう迷いはなかった。硝子の引き戸に指をかけ、覚えのあるその重みを──ゆっくりと横へすべらした。 菓子の甘い匂いとともに、クレヨンをぶちまけた色彩が魚眼レンズを覗いたみたいに目に飛び込んできた。なにもかもが変わってなかった。ほんとに、なにもかもがだよ。 奥の隅に──おばちゃんがいた。 昔とおなじ丸椅子に腰かけてた。えび茶色の和服の上に白い割烹着をつけてた。記憶にあるそのままの姿だよ。すこしだけ、小さくなったような気はした。 目が合った。屈託のない・昔のままの表情だった。痛みにも似た懐かしさが胸にひろがった。俺だってわかってはいなかった。取材うんぬんの話を俺は早口にしゃべった。おばちゃんは、ええよ、ゆっくり見ていってや、もう子どもも来こんやろうしね、と言った。声も記憶しているものとまったく同じだった。しゃべりかたもいっしょだ。自分の頬がゆるんでいくのがわかった。たぶん、何年か