話は──終わったのだ。 なんと言えばいいのかわからなかった。右の手の甲で意味もなく口もとをこすっている自分に気づいた。膝の上に手のひらを戻した。藤堂さんは同じ姿勢のまま、動かなかった。 「つまり──」と声をひそめて僕はささやいた。「おばさんは、幽霊だった──」 「わからん」、藤堂さんは思いのほかすぐに答え、顔をあげた。ゆっくりと頭をふり、どこか自嘲気味に微笑わらった。 「いまでもわからんよ。おばちゃんにはしっかりした存在感があったし──なんといっても抱擁までしたんだからな。和服に染みついたお菓子の匂いまで嗅ぐことができた。温かな涙まで流してた。そんな幽霊っているか?」 藤堂さんはまた短く黙ったのち、つづけた。 「だけど──そうだったんだろうな。そうとしか考えられない。説明がつかない。正直──俺にはもうどうだっていいんだよ。幽霊だろうが、夢を見ていたんだろうが。俺はたしかにあの夜、おばちゃん
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