榛野なな恵『ピエタ』/78点 (ネタバレがあります) 榛野なな恵にとって、世界は、彼岸と此岸に分裂している。 平凡と普通を強制する帝国と、そこからはずれた人たちの共同体である。 『Papa told me』ではその分裂が提示されるにとどまる。 帝国はたえず、侵入してくる。「結婚せよ」「子どもは○○らしく」を強制する帝国は、フリルをつけた「デコラティブ」(by的場知世)な服で武装している(下図参照)。共同体の住人たちは、それに違和感や息苦しさを感じ、ただ防御に徹するのみである。 「入ってこないで」が共同体側の最小限の要求スローガンである。「そっちはそっちでやっていてくれたらいい。どうして私たちのささやかな幸せまで邪魔するの?」──それが榛野の小さなつぶやきなのだ。この時点では。 榛野は短編集『卒業式』で帝国にたいする戦闘を開始する。平凡と普通とクローニーを押しつける帝国に、たった一人で宣戦布