競艇による集金システムを築き上げ、“日本の首領”の汚名を背負った笹川良一と、彼を陰ながら支え、その遺志を継いだ三男・陽平に迫る週刊ポストの新連載『宿命の子』。作家の高山文彦氏が、良一氏の遺体解剖の様子を綴る。 * * * 良一の遺体は手際よくストレッチャーに移され、解剖室に運ばれた。人工のものか自然のものか定かではないが、大理石のような光沢を放つ石質の冷たく固い台の上に横たえられた。俎板の上のなんとやら、である。もうこの部屋にはいった時点から、毀誉褒貶を一身にあびてきた稀代の風雲児の遺体はブツにすぎなかった。医師は日野原重明・聖路加国際病院院長と主治医と、若い病理専門医の三人、あとは陽平がいるだけだ。 「では、はじめさせていただきます」と、主治医が言い、四人で合掌したあと、父は丸裸にされた。さすがに血の気は失せて真っ白だったが、小柄ながら若い頃は空手で鍛え、老いては八〇歳を過ぎてから