たとえば鳥羽一郎の『兄弟船』とか、川中美幸の『ふたり酒』とか、テレビを見ていれば自然に目と耳に入ってくる曲がある。想像力を必要としないワンフレーズでシングルメッセージの演歌群。私はこれを「様式演歌」と呼ぶけれど、こうした「様式演歌」を愛好する一定のマーケットが確実にあり、時代が変わってもなかなか消えない。私はその世界に内在できず、こういう音楽を生活の一部にしている人たちの感性によく共感できない。普通に日本の小学校と中学校に通い、音楽の教科書に載っている歌を習い覚えてきた人間が、『兄弟船』を好み聴く人間になる過程を論理的にトレースできない。きっとこういう曲を聴いている人たちが自民党に投票しているのだろうと思って違和感を埋めていた。60年代までの歌謡曲の世界は「あなたに棄てられて悲しい」「あなたなしで生きていけない」と女が嘆くだけのワンパターンの「様式演歌」が主流だった。 阿久悠を中心とする7