坂野潤治著『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書)は、今までの常識を覆して、日中戦争直前まで民主化が進展していたことを明らかにしている。先日、NHKで戦前のカラー映像の番組を見ていたら、現在の映像を見ているような不思議な気分にとらわれた。戦争前には日本の都市に高いビルが建っていた。発展した国で、平和に人々が暮らしている。今の時代とあまり変わらないのである。この本を読んでいるときも同じ気分にとらわれた。それだけ、映像や記述に対してリアリティーがあるし、戦争が近くに感じられないという点で共通点があると思った。 陸軍長老の宇垣を総理・総裁に迎えることによって、戦争とファシズムを阻止しようとする構想は、民政党と政友会の二大政党の一部によって満州事変以降、一貫して抱かれていたものだった。1937年1月、宇垣内閣を流産させたのは石原莞爾を中心とする陸軍であったが、天皇側近が2・26事件で萎縮していたことも