30年以上昔、僕がまだ25歳ぐらいのことだ。 もちろん、僕は若者らしくさまざまなものに飢えていた。そして、会社に通いながら、何ものかになろうと、具体的に言うと、物書きになりたいとあがいていた。 僕は『活字』に憧れた。 ノートや原稿用紙に書いてみるのだけれど、本や雑誌で読む『活字』と、僕が手で書く原稿とでは、それが運ぶ情報は同じものであるはずだけど、ぜんぜん違うものに思えた。 自分の書いたものが活字になっているところを見たくて仕方がなかった。 活字になったあかつきには、ブサイクに見える自分の文章も、ぴしっと、一人前のものになるはずであった。 しかし、自分の原稿が何かの賞をとるとか、雑誌や新聞の投書欄に応募して採用されない限り、自分の文章が活字になっているのを見ることはできないのであった。 いや、僕の文章が活字になったことは、それまでに一回だけあった。 大学時代、新入生向けに発行された冊子に、