『わしズム』にも書いたのだが、昨年八月の『文學界』に載った古屋健三の「老愛小説」は、私が読んだ中では昨年度ベストの小説だった。古屋は、知る人ぞ知る慶大名誉教授のフランス文学者で、60歳になるまで著書は出さない方針で、今は70を超えているから著書も三冊、また数年前から小説も書いている。 私は「老愛小説」が芥川賞をとり、森敦(世間ではもりとん)の最高齢記録を塗り替えることを期待していたのだが、発表された候補作の中に「老愛小説」はなかった。若い女が売りものの今の芥川賞では、70超えた老人の小説など要らないということなのだろうか。残念である。それにしても、古屋の小説はもう一冊にしてもいいくらいあるはずで、是非刊行してほしいものである。 - 永田寿康のように、原因が特定できる場合はともかく、原因不明の自殺というのは、しばしば精神障害、すなわち統合失調症の疑いが濃く、統合失調症は遺伝性が極めて強いから