画家・安野光雅さん〈1〉 日本国が失った二人[掲載]2010年9月5日「黙阿弥オペラ」上演中の東京・新宿の紀伊国屋サザンシアターで(現在は大阪公演中)=郭允撮影 東北本線一ノ関駅あたりで列車が急停車し、突如「吉里吉里人(ちりちりづん)」が乗り込んできて乗客を外国人として扱い、旅券を見せろと言う。吉里吉里国は独立したと宣言するのだ。 「俺達(おらだつ)が独立(どぐりじ)を踏み切(ぎ)ったなぁ、日本国(ぬほんのくに)さ愛想(あえそ)もこそも尽ぎ果(はん)でだがらだっちゃ」 井上ひさし『吉里吉里人』が出たのは30年近く前だが、その本の装丁をするために、わたしは出版社から雑誌連載の分厚い束を持たされて外国をめぐり、先々で読んだ。 独立の理由を共通語で要約すると、「減反しろ、広域営農団地を作れ、村有林を伐(き)れ、隣の町と合併しろ、上流の工場排水のために川水が少し濁っても我慢しろ」などと「国益のため