三島由紀夫の「豊饒の海」を再読したのだが、やはり失敗作と断じるしかない。24歳の時の「仮面の告白」と31歳の時の「金閣寺」は青年らしい悩みを描いた作品であり、成功作となった。40代前半に書かれた「豊饒の海」は畢生の大作を目指し、集大成となるはずだったが、完全に頓挫したのである。プログラマーは三十代半ばを過ぎれば明らかに衰えるし、作曲家も45歳では才能が枯れ果てて水一滴も出ないのが大半であり、52歳で第九を作曲したベートーベンはかなり稀な事例であるが、思想的なことに関しては、むしろ頭の柔らかさを失ってから傑作が生まれるものである。哲学者や思想家のピークは40代から50代であることが多いと言える。ハイデガーが37歳で「存在と時間」を書いたのは異例の早熟さであり、たいていの哲学者の主著は40歳以降である。カントなどは57歳の「純粋理性批判」以降に主要著作の大半を書いている。これより前に死んでいた