(未知谷・2750円) ロシア愛に満ちた勝手放題な話 おそろしく濃厚な小説である。 書評者としてどこから手を付けていいかわからない。 プロットの要約が難しい。画面の中心を動いてゆくのはガスパジン・セッソン(ミスター雪村)という日本人。 スタートはシベリア鉄道のモスクワの駅だが、その後、舞台はサハリンに移る。北海道の北にある縦長の島で、その南部はかつては樺太(からふと)と呼ばれて日本領だった。更にその前はロシアの流刑囚の地。 一八九〇年、アントン・チェーホフは短篇作家・戯曲作家として名声を得ていながら本業の医者として一万キロ八十日間のシベリアの旅を経て来島し、八千人の囚人の疫学的な面接調査を行った。