(新潮選書・1650円) 衝撃の問い、創意に富む綿密な考証 「バナナフィッシュにうってつけの日」の結末をめぐる、壮大で驚くばかりに緻密な考察の書である。「この短編にはこんなことが書かれていたのか!」と、読者は一ページごとに瞠目(どうもく)するだろう。 米フロリダのリゾートホテルの一室で、三十一歳の男「シーモア・グラス」が幸せのさなかに拳銃自殺を遂げた――この短編のラストをこのように解釈している読者は多いだろう。しかし本書はまず、「死んだのはシーモアだったのか?」という衝撃的な問いを発する。次に「それは本当に自殺だったのか?」と。 この短編の前半は、シーモアの妻ミュリエルがホテルの室内で母と電話で話すようすを描いている。その会話には、シーモアの名も出てくるので、この旅に同行していると思える。後半はビーチで若い男が少女とたわむれるさまが描かれ、この男はエレベーターで乗り合わせた女性が、彼の足を