『中世法制史料集 第一巻 鎌倉幕府法』(岩波書店)の中の鎌倉幕府追加法の中から鎌倉幕府における「撫民」に関する法を読んでいく。「撫民」とは「民を撫でる」すなわち民生の政策のことである。具体的には追加法293で示された「凡そ少事を以て煩費を致すべからず。専ら撫民の計らいを致し、農作の勇みを成すべし」というところに如実に表れている。「煩費」というのは『中世政治社会思想』の頭注によれば「百姓に罪を科す」ことであり、さらに言えば言いがかりをつけて百姓を自分の下人所従にしたり、妻子所従を下人化したりすることを指している。強者ではなく、弱者を保護すること、それが「撫民」だったのである。この政策は中世社会の基本的な価値観である「自力救済」と対極にあった。「自力救済」の価値観においては基本的に国家権力は民間に介入しない。それがかつては中世における「自由」と考えられてきたが、この40年ほどの間の惣村史研究や