表紙へ 前の記事 次の記事 エッセイ ドルン演出の「ファウスト」 都築正巳 先般東京でゲルマニストの国際学会が催されたときに,ディーター・ドルン演出のゲーテ「ファウスト」が日生劇場で上演された.これは「第一部」だけで延々と五時間を要し,間狂言の部分なども含めてかなり忠実にテキストを追った演出であったが,退屈させるどころか,興味深々時の経つのも忘れさせるものがあった.ところがその後,飲み仲間との会合などで話題になったときに,これが大分人を憤激させる演出であったらしいことに気づかされ,無批判の観劇を反省させられた.確かに天上の「主」が現れる崇高な場面などもいやに即物的で滑稽味さえ帯びるのはやや挑発的で,イメージ破壊的演出であったかもしれない.特にワルプルギスの夜の魔女達がリアリスティックに描かれると,その量感はグレートヘンの可憐な形姿を押しつぶしてしまうに十分である.全体が悪の祭典で終わってし