初めて訳出の情報を聞いてから2年。長いこと待った甲斐があった。超絶技巧の傑作長編『ケルベロス第五の首』やひねりの効いた短篇集『デス博士の島その他の作品』、そして濃厚で長大な「新しい太陽の書」シリーズでカルト的な人気を誇る作家、ジーン・ウルフの初期傑作長篇がついに日の目を見ることになった。翻訳は西崎憲氏と館野浩美氏の共同訳で、巻末には西崎氏により詳細かつ懇切丁寧な解説がつくというおまけつき。ウルフ作品の初心者に対しても優しいつくりになっている。(ただし小説自体が読者に優しいわけではない。) ウルフはSFというジャンル小説の中でもとりわけ難解と云われる作品を書く作家とされている。それは決して「作品がつまらない」という事を意味するわけではなく、ただ読者に親切でないだけだ。 通常の小説の場合は、作者が考えたストーリー(≒時系列順に作られた真実の話)がきちんと読者の頭の中で再構築できるように書かれて