思えば、その『アンデルセン童話集』は、最初からただごとではない空気を漂わせていました。発行は一九五一年。背表紙は日焼けと経年劣化で黒く変色し、いまにも崩れてしまいそうな状態。全十巻のうち、元々あったであろう一巻と六巻は欠けており、その本の上に長い時間が流れたことが想像されます。この本の二巻には、とある女性宛ての手紙が挟まっていました。書かれていたのは二人の男女の「喧嘩」と「仲直り」の模様。以降の巻にも、 だいたいひと月ごとの日付でメッセージが記されていました。どうやらこれは本に託した「ラブレター」のようです。最終巻十巻の手紙には「少しでも早く一緒になる事だけ考えて、此の一年を頑張ろう」という言葉。おそらくは遠距離恋愛の関係にある二人のものだと思われます。しかしながら、この本にはとある疑問点がありました。それは、宛先の女性が「F子」と偽名のような名前であること。送り主は「英雄」と本名(らしい
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