新型ウイルスの危機に接して、これまで見過ごされがちだった格差・差別の問題が顕在化しています。しわ寄せはまず、力を持たない、犠牲にされやすい人びとの側へと向かっていく――。その背景には「優先して守るべき人」と「守らなくていい人」に分ける、この日本社会の暴力的な構造が潜んでいるのではないでしょうか。非常時の下で踏みにじられていく小さな声を、作家の石井光太さんが現場から伝えます(5月は毎週金曜日更新です)。 はじめに 二〇二〇年のゴールデンウィークに入って間もなく、私は都内の某病院で新型コロナウイルスの医療取材を行っていた。医療関係者に治療現場の話を聞いていたのである。 インタビューが終わって携帯電話を見ると、ある六十代の女性から着信履歴が九件もあった。かけてみると、電話口でこう言われた。 「息子が怖くて家から逃げてきました! 住むところがありません! どうしたらいいでしょう!」 この女性とは、