「ものを怖がらなさ過ぎたり、怖がり過ぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなか難しい」。明治時代の偉大な物理学者、寺田寅彦が残したこの言葉の意味を、食品偽装や残留農薬など食の問題に右往左往する我々日本人は、じっくりと噛みしめるべき時に来ているのではないか。 今、日本で最も多い食品関係の事故は微生物汚染による食中毒だ。それなのに、細菌数が高いとされるレバ刺しや鶏刺しなどを、抵抗力の低い高齢者に安易に提供する飲食店は少なからずあるし、お客も何の疑問も抱かずに食べている。その一方で、残留農薬や食品添加物に対する怖がりようはすごい。栽培時に使った農薬や食品製造に使った添加物が原因で健康被害が生じた例はただの一度もないのにだ。 このように、実態以上の恐怖におびえているのは、農薬や添加物のような化学物質の場合、それが毒物になるかならないかはその量によって決まることが理解できていないから、