『麦と兵隊』で有名な従軍作家・火野葦平は南京攻略作戦に従軍していることでつとに有名。従軍の渦中、出征前に発表した『糞尿譚』が第6回芥川賞を受賞している。授与式は戦地で行われたが、日本からは小林秀雄がおもむいた。火野は「南京事件」そのものについては作品で表現していない。しかし、前後の会戦を材料にしたのが「兵隊三部作」。戦前伏せ字で発表された作品、そして芥川賞授与に赴いた小林の証言に耳を傾けると「事件」が必然だったことは明らかであろう。加えて火野が戦後に改訂した作品には「武勇伝」は消え、火野の話を現地で聞いた小林の証言は、戦後の彼の著作集・全集からは削除されている。