市場経済が、伝統的な道徳観と衝突し、多くの人々に嫌われるのは、それが人々の利己主義を助長するからと信じられているからだ。私は、大学で経済学を専攻し、この問題をずっと考え続けてきた。しかし、15年くらい前にある結論に達して以降、自分の考え方はまったく変化していない。 私は、人々の「健全な利己主義」は望ましいものと考えている。私が市場経済というものを深く愛するのは、この健全な利己主義と相性がよいからである。それでは、健全な利己主義とはなんだろうか。 人間の身体は約60兆個の細胞から成り立っている。各細胞は、同一の遺伝情報を持っているが、構成する器官に応じて複雑に分化して、異なった形状や機能を持っている。そうした、多様な細胞の共同作業の結果として、人間の身体は存在し、機能している。 それは、第一に純粋に物理=化学的なプロセスであり、人間の意識を超えている。つまり、私たちが何も念じることなくても、