「頑固じじい」のような仕立て屋・南市江(中谷美紀)は、祖母である先代の残した小さな洋裁店で、今日もミシンを踏んでいる。布を選ぶ手、ハサミを使う手……針と糸を扱うその手は、人々に喜ばれる服を自在に作り出すことができるのに、仕事以外はずっと不器用に生きていた。そんな彼女が、市江の仕立てる服に魅了されたデパートの社員・藤井(三浦貴大)との出会いによって、次第に心が揺れ動き、変化していく……。映画『繕い裁つ人』は、池辺葵原作の人気コミックをベースに、『ぶどうのなみだ』『しあわせのパン』を手がける三島有紀子監督が神戸のレトロな街並を舞台に、職人の信念と誇りを持つ一人の仕立て屋の女性の生き方を描いている。 古いものと新しいものが混在する神戸の街で、震災を経て今も残る歴史ある邸宅と、異文化への寛容さを感じ取れる港を情緒的に切り取ったこの映画は、思わず襟を正したくなるような一つひとつの道具の丁寧な扱いが印