「フランクフルト学派」批判理論の先行者のひとりに位置づけられるW・ベンヤミンが、ナチス・ドイツからの亡命の途上、そして1940年、スペイン国境で捕えられ服毒自殺をとげる直前まで、推敲を重ねた絶筆に「歴史の概念について」と題された一連の断想集がある。その一節に、P・クレーの絵「新しい天使」(写真1)によせた省察が遺されている。ベンヤミンの「改釈」によれば、破局の連続としての歴史、瓦礫の堆積としての歴史をまえにして、天使は驚きの眼を見張り、これまでの過去の方から吹きつけてくる強風にその翼をあおられながら、やむなく未来のほうへ飛びたとうとしている。そして、「私たちが進歩と呼ぶもの、それがこの強風なのだ」。 そして第二次世界大戦、全体主義の時代の狂気と暴力のさなか、亡命先のアメリカにあって、M・ホルクハイマー、Th・アドルノによって書き継がれ、「フランクフルト学派」批判理論の原点に位置することにな