昭和初期、福岡を拠点に活躍した探偵小説家・夢野久作。その全貌を伝える『定本 夢野久作全集』(国書刊行会)が刊行中だ。この5月に発売されたばかりの第6巻のサブタイトルは【童話】。久作が探偵作家としてデビューする前、地元の新聞などに別名義で執筆していた創作童話71編を収録している。 久作が童話を旺盛に手がけていたのは、大正時代後半である。ちょうど鈴木三重吉の雑誌『赤い鳥』が創刊され、日本の児童文学に新しい波が訪れていた時期と重なっているが、強靱なイマジネーションと、ナンセンスな笑い、オノマトペを多用した独特の文体を備えた久作の童話は、すでにオリジナルな世界を確立していた。たとえば「オシヤベリ姫」「人が喰べ度い」「豚吉とヒヨロ子」とタイトルを並べてみれば、そのユニークさがなんとなく伝わるだろうか。 長年の久作ファンとして数ページの小品にも捨てがたい魅力を感じるが、久作童話の代表作といえばやはり、
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