エデンの園からは4つの川が流れ出た。うち1つがチグリスで、古代王国アッシリアの東を潤した-。旧約聖書にはそう書かれている。 いにしえよりチグリス川に育まれてきたイラクの首都バグダッドは、戦乱の10年の傷痕がまだ生温かく、人々の言葉は鉛を含んだように重かった。「チグリスはすべてを見てきた」「この川は何でも知っている」。黙示録の一節のような言葉も聞いた。 ■収容は神への務め 川岸のハイファ通り。高層アパートの灰色の壁には、2003年4月、バグダッドに侵攻した米軍による弾痕が数多く残っていた。だが、侵攻時よりも、05年ごろからの宗派抗争の時期が「最も恐ろしかった」と多くの住民は証言する。フセイン独裁政権を支えたイスラム教スンニ派と同政権下では虐げられてきたシーア派が、時には細い通りを挟んで憎み合い、殺し合いを続けた時期だ。 雑貨店主のカリド・フセイン(44)はアパートの入り口付近を指して言った。