訳者としては、これからも時代を超え、この『フラニーとズーイ』が、古典として、また同時代的な意味を持つ作品として、長く読み継がれていくことを望む。若い読者には若い読み方ができるし、成熟した読者には成熟した読み方ができる、きわめて優れた質を具えた文芸作品であると信じている。ナイーヴであると同時に技術的にはきわめて高度な、原理的・根源的であると同時にどこまでも優しい魂を持った魅力的な小説だ。丁寧に描き込まれた印象的な細部には、思わず心を奪われてしまう。いたるところに、そのあらゆる隅っこに、まるでだまし絵のように隠喩が潜んでいる。小説好きの人なら人生の中で一度、あるいは二度、読んでみるだけの、それもゆっくり時間をかけて読んでみるだけの価値のある希有な作品だ。本の大半を占める『ズーイ』の章に登場する素敵な人物たちは──猫のブルームバーグをべつにすればたった三人だ!──うまくいけばきっといつまでも、血