ベーコンと私 人生で忘れられない味がある。 8年前、アメリカのユタ州にある家でホームステイした時だ。朝起きると、ホストマザーが朝食を用意してくれていた。アメリカに対する淡い憧れを抱いていた私は、スクランブルエッグにトースト、オレンジジュースという組み合わせに「いかにもアメリカの朝食っぽい…!」と密かな興奮を覚えた。 この中でも、私の心に深く刻まれているのは卵に添えられていたベーコンだ。一見するとどこにでもある平凡なベーコンなのだが、一たび口にすると寝起きの頭が肉色になる程の衝撃に襲われた。このベーコン、恐ろしくカリカリなのである。 実家で出てくるベーコンは歯ごたえこそあるものの、カリカリというにはほど遠いウェットな触感で、これがベーコンなのだと信じて生きてきた。ベーコン=しっとり という方程式を信じ込んでいた私に訪れたカリカリベーコンは、まさにベーコン界の黒船とも言える存在であり、この日を