[ cinema ] 正直に書く。ホン・サンスのフィルムを見たのはこの作品が初めてだ。天の邪鬼なのか、韓流映画の流行が嫌で韓国映画というだけで素通りしていた。もちろんホン・サンスが、韓流に収まらないことは知識として知っていたが、知っていただけではどうしようもない。反省も込めて行動に移した。 そして『アバンチュールはパリで』を見た。すごいフィルムだと思った。以下、その理由を述べる。 まず、驚いたのが、ロケ地がパリとドーヴィルなのに、まるでパリやドーヴィルという感じがしないこと。パリという都市はとても抑圧的な空間だ。その都市のどこを写真に撮っても、それがパリであることがたちどころに納得されるような場だ。戦前の良質フランス映画なら、アレクサンドル・トローネルの力で、セットの中でそうしたパリを再現したし、ヌーヴェルヴァーグなら、徹底したロケで、「パリは映画に撮られるに値する都市である」(ダネー)こ