春まだ遠かった二月、東京・新橋で路上生活をしていた男性が、亡くなった。翌日、寝床にしていた歩道に、あふれんばかりの花や飲み物が供えられた。「自分が何かしていれば、救えたんじゃないか」。そんな心残りが、街を行き交う人々にあった。 (大野孝志、柏崎智子) 男性は昨秋あたりから、新橋駅周辺で見かけられた。背中が直角に曲がり、顔は腫れ、脚を引きずるように歩く。地下鉄の出入り口に近い、廃業した喫茶店の前に傘を広げ、雨風をしのいでいた。 寒波が都内を襲った二月二日朝。動かなくなっているのを、近くのビルの警備員が見つけた。愛宕署の調べでは、死因は低体温症。凍死だった。本籍地が東北地方の五十代。身元は指紋で確認されたが、親類と連絡が取れない。四十九日が過ぎ、桜が開花するころになっても、遺骨は都内の寺に保管されたままだ。