書評家・作家・専門家が《今月の新刊》をご紹介! 本選びにお役立てください。 (評者:東 雅夫 / 文芸評論家) 盛夏の某夜、魔界都市しんじゅくのビアガーデンで、菊地秀行さん主催の暑気払いの宴が催された。あいにく私は某書の校了中だったため、宴なかばで失礼したのだが、帰り際、旧知の編集者氏に呼びとめられて、「ヒガシさんが絶対、気に入りそうな小説を近く出すので、よかったら読んでみていただけませんか」と耳元で囁かれた。 それから程なくして送られてきたのが、本書『まほり』の分厚いプルーフだったのである。おお、これか~と、何の気なしに冒頭部分を読み始めたらサア大変。いきなりの「ひととって喰おうか」(妖怪名をあえて出さないところがまた心憎い)攻撃に目を瞠みはり、独特な語りの名調子にうかうか誘い込まれて、ハッと気づいたときには全体の半ば近くまで、夢中で読み耽っていようとは……。いやはやベテラン編集者の眼力