吉田松陰(1830~59年)の本を読むようになったのは大学卒業前の頃です。内定していた企業が1社ありましたが、入社する気になれず、塾でも始めようかと思っていました。幕末の私塾を調べる中で、松陰が教えた松下村塾のことが気になり、図書館で松陰の「幽囚(ゆうしゅう)録」などを読んでいました。 昭和56年ごろ、明治から昭和にかけて活躍した第一級のジャーナリスト、徳富蘇峰の『吉田松陰』が岩波書店から復刊され、手に取りました。松陰はペリーが再来した1854年、下田で海外への密航を企て失敗。幽閉中、松下村塾で教え、最後は幕府の対外政策を批判し刑死しました。蘇峰は松陰の生涯を時代の中に位置づけ、短い表現で本質をとらえています。 冒頭の「誰ぞ 吉田松陰とは」では、「彼は多くの企謀を有し、一の成功あらざりき。彼の歴史は蹉跌(さてつ)の歴史なり。彼の一代は失敗の一代なり」と記し、維新との関連では「彼はあたかも難