0. はじめに 隠喩や暗喩などと訳されるメタファーは、レトリックの一種として、古代ギリシア・ローマ時代からの長い研究の歴史を持っている。 それだけに、これまでの研究の蓄積量だけでも膨大である。 佐藤信夫の『レトリック感覚』でも、隠喩に関して次のように述べられている。 (1) 古代から、現代でもなお、隠喩はつねにレトリックの中心的な関心のまとである。 一九世紀後半に古典レトリックがすっかり見捨てられたのちも、隠喩だけはいつも哲学者、詩人たちの興味をひきつづけている。 かぞえてみることなどとても不可能だが、古来、研究され書かれてきた隠喩論の書物や論文は、何百、いや何千か、数知れず、隠喩にかかわる問題はもう出つくしているのではないかとさえ思われるありさまだ。 これだけ膨大な研究量を誇るメタファーであるが、もっぱら研究の分野としては、哲学、修辞学、文学といった領域を中心に感心が持たれてきたのではな