湯の街として知られる大分県別府市在住の写真家・藤田洋三さんと出会ったのは、かれこれ20年ほど前のこと。昨秋、小社から刊行した写真集『世間』に至るまで、これまで計5作に関わらせてもらった。 この藤田氏、幼少の頃から大工や左官といった職人の仕事が大好きという少年で、その普請現場をひねもす眺めていたという。 「私が小学生のころ、身近に四人の『しゃかんや』さんが住んでいた。その一人は(略)左官の親方だったのだろう、いつも大勢の職人さんが出入りしていたその家には、海草糊を炊く匂いが立ちこめていた」(『鏝絵〈こてえ〉放浪記』石風社刊より) ここでなぜ「海草糊」が登場するのか疑問に思う方もおられるだろうが、この「糊」は土壁に混ぜる必須の素材だったのである。 ある時、その左官さんが「赤土を盛り上げて水をはったプールを作り、長い間それを放置した」。何のためにこんなことをするのか、小学生の藤田氏には皆目見当が