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ブックマーク / apartment-home.net (4)

  • 30の結び目から。 |アパートメント

    この回で『それをエンジェルと呼んだ、彼女たち』は最終回を迎える。この連載では人と出会った記憶を起点に、彼女・彼らを思い出すようにして書いてきた。それは思いを重ねることだった。自分はその人の何を書いているんだろう、という問いは重ねるほどに膨らんでいった。 胸を痛めたり、熱くしたり、透き通らせるような出会いを思い出すとき、特別に思えたその瞬間を一言一句記録する代わりに色として書き写した。ちょうど旅先で忘れたくない景色を慌てて自分の手持ちの色でスケッチするように。記憶は頼りないのに鮮やかで、私はその色彩を頼りに書いてきた節がある。限りある色数で塗られた記憶から言葉をつないできたのだと思う。色彩は揺れる感情の波動で色を変えていく。 書くほどに人にはいろんな面があるということを考えた。当のところは「面」と言い切れない、液体のようなゆるやかさでひとりの人間がいろんな感情を抱き、考え、振る舞う。その一

    30の結び目から。 |アパートメント
    tweakk
    tweakk 2020/05/12
    ちょっとぐっときた “彼・彼女について告白にならないように書くのは難しかった。言わないことを多分に残すために注意深くならなければいけなかった”
  • ゴミ分別の煩わしさと憂鬱を逃れるために |アパートメント

    こんにちは。 このたび、日のゴミ分別の煩わしさと憂を逃れるために北アフリカの都市マルセイユに住むことにしました。 この「アパートメント」には、マルセイユ国立バレエ団のダンサー木下氏からご紹介いただきました。 この街に来ると、まず目につくのは、ミストラル(季節を問わず吹く南仏特有の冷たい強風で赤城おろしや六甲おろしのようなもの)に巻き上げられて空中を浮遊したりふわふわと道を転がっていったりするスーパーの袋、新聞紙、人糞らしきものついたキッチンタオル、使用済みパンティーライナーです。 アフリカの他の地域に比べてマルセイユの人たちが特別ゴミの出し方のマナーが悪いわけではありません。 マルセイユでは、ゴミ収集人の労働組合が大変強く、年中ストライキがあります。 マルセイユについた当時、Super U(近所のスーパーで、この地区では唯一の文化的な憩いの場)の掲示板に張ってあった「地区のコミュニティ

    ゴミ分別の煩わしさと憂鬱を逃れるために |アパートメント
  • 町のはなし。 | アパートメント

    「松代町(まつだいまち)は、新潟県の南西にあった東頸城郡の東端に位置していた町である。 2005年4月1日に十日町市および東頸城郡松之山町、中魚沼郡川西町・中里村と合併し新設の十日町市となったため消滅した。」 ウィキペディアにはこう記載されている。 それがぼくの育った町だ。 近年では大地の芸術祭の舞台にもなっていて、先日帰郷したときも多くの人で賑わっていた。 ぼくが上京してから17年が過ぎ、町の様子も少しばかり変わった。 ぼくの記憶にある町の夏は、なにもなくって、退屈で、キラキラしている。 山と空にのみ込まれるように点在する民家。 ひとけのない道。 トタン屋根。 プール。 虫。 届きそうな白い雲。 青々とした稲。 てぬぐい。 農作業する腰の曲がった老人。 豪快な笑い声。 銀歯。 草木の匂い。 焼けつく太陽。 家族。 蝉の声。 汗。 西瓜。 砂埃をたたせ走る大型トラック。 ぼく、あの娘。 真

    町のはなし。 | アパートメント
  • 足りない |アパートメント

    いまのわたしには、足りないものがある。ことばも、気遣いも、なにも必要のない、まっしろになれる時間を、いつのまにかどこかに置き忘れてきたらしい。Guarulhosを離陸した瞬間、空からどこかの海に落っことしてしまったのかもしれない。いまは、その術さえおぼろげで、どうやってまっしろになっていたろう、って、そんなことしか考えられない。絡まり合った、真っ黒い糸の塊、ぐちゃぐちゃで、糸端がどこにあるのかわからないから、気ばかりが焦って、いらんとこ引っ張って、糸がもっともっと絡み合っていく。もしかしたら、もう、一の美しい糸には戻らないかもしれない。 高校生のころ、ことばにも、気遣いにも疲れたわたしには、行く場所があった。夕暮れどきや、真夜中に、部屋の窓から裸足でテラスに飛び出して、身の回りの音や、色に全神経を集中させて、変わっていく一瞬一瞬の、自然の表情を全身でとらえようとしていた。ひとりのときもあ

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