この回で『それをエンジェルと呼んだ、彼女たち』は最終回を迎える。この連載では人と出会った記憶を起点に、彼女・彼らを思い出すようにして書いてきた。それは思いを重ねることだった。自分はその人の何を書いているんだろう、という問いは重ねるほどに膨らんでいった。 胸を痛めたり、熱くしたり、透き通らせるような出会いを思い出すとき、特別に思えたその瞬間を一言一句記録する代わりに色として書き写した。ちょうど旅先で忘れたくない景色を慌てて自分の手持ちの色でスケッチするように。記憶は頼りないのに鮮やかで、私はその色彩を頼りに書いてきた節がある。限りある色数で塗られた記憶から言葉をつないできたのだと思う。色彩は揺れる感情の波動で色を変えていく。 書くほどに人にはいろんな面があるということを考えた。本当のところは「面」と言い切れない、液体のようなゆるやかさでひとりの人間がいろんな感情を抱き、考え、振る舞う。その一
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