本についての本は、池澤夏樹がいい。 いい本を探してくるし、紹介のしかたが上手い。古典と新しい本とのバランス感覚にすぐれ、私見や体験をおりまぜて「この本が好き」な理由を語りだす。その語りが好き。じっさい、珠玉のブックガイド「読書癖」はお世話になった。生々しい人間臭い読書から距離をおきたいとき、重宝する。 で、今回は「雷神帖」。「風神帖」と対を成しているが、立ち読みでこっちに決めた。いつものように気の利いたメタファーが並んでいて安心して読める。 よく書かれた小説はもっとも高密度の、人間的な、具体から抽象までの幅広いスペクトルを持つ、叡智のパッケージである。この本についてならぼくはまだいくらでも、かぎりなく、読む人がうんざりするまで、考えを展開することができる。ぼくはこういう読書の記憶を何百冊分か持っている。 プリズムを通した分光スペクトルのイメージが浮かぶが、よく分からない。スペクトルの語源「