この本の内容をひとくちに言えば、「幕末・維新の時代に訪れた外国人が見た古きよき日本の姿」と言うことができます。しかし、それは単に近代化される前の遅れた社会に見られる素朴さということではなく、当時としては世界的にも著しく文化の発達した国の国民が作り上げた希有な文明と呼ぶべきものなのです。俗に「江戸文明」または「徳川文明」と呼ばれている当時の日本の社会が、いかに世界の目から見て異質のものであり、また汚れのない美しいものであったかが偲ばれる内容となっています。 その文明は、明治維新後の西欧化の荒波によって、いまや完全に崩壊させられ、まさに過去の幻影となってしまいましたが、私たちはこの国がかつて有していた素晴らしい社会の姿を胸に焼き付けておく必要があります。それは、この本にまとめられている多くの外国人の掛け値のない感想から十分にうかがい知ることができるはずです。 (なわ・ふみひと) ある文明の