歌野晶午はやっぱり良くも悪くも「葉桜」の呪縛の中にいて、本作もそこに立ち向かって負けた作品なのだと思う。もはや著者名を見た時点で読者は「叙述トリック」であることを期待してしまい、フラットな状態では欺けないわけで。著者はさらにそこを上回る仕掛けをつくらなければいけない。 本作においては、主人公自身の成長を描くことで、トリックが暴かれた瞬間に物語が変化するのに加え、物語の中で主人公自身も変化させている。ただ、それが決して効果的ではなく、読者に対して訴えかけるものがあるかといえば、、、そんなことはない。 やはり叙述トリックのミステリーは「仕掛け」にこそ価値があり、物語自体に魅力を感じにくい作品で。そこに主人公の成長譚を差し込んでも、”震える物語”にはなりにくいのだろう。 うーん、この呪縛から逃れるには「叙述トリック」では無い作品を書くことが必要なのかもしれないけど、著者にそれを望むのも違う気が。