いつか美郷に帰ると心に決めていた。18歳から40年余、京都に住み、大手繊維メーカーのエンジニアをしながら一度もその思いは揺るがなかった。だからずっと社宅住まい。家も建てなかった。 帰ったのは、定年退職した翌年の2003年。しかし、介護していた実家の母親が他界すると時間を持て余した。そのころ耳にしたのが梅酒勉強会。「暇つぶしのつもりが面白くなってきてね」 吉野川市美郷の東野宏一さん(72)はそんなふうに梅酒と出合った。当時参加したのは梅酒特区の認定をにらんで美郷商工会が08年に数回にわたり開いた勉強会。梅酒の作り方から免許の取得方法まで。学ぶほどに梅酒づくりに魅力を感じた。 ところが妻の千里さん(69)は反対した。「この年齢になって一から梅酒づくりを始めるなんて。長年働き詰めやし、ゆっくりしてほしかった」。それを動かしたのは2人の息子夫婦だった。 「4人がみんな賛成で、親父がここまで