ひきこもり ─根拠なき順応と,交渉弱者─ 上山和樹 はじめに ひきこもりは,思想の試金石といえる。肯定するにしろ否定するにしろ,ひきこもりの問題 をどのように理解するかで,その者の思想を詳細に検討することができる1) 。 本稿では, 「ひきこもり」をめぐるさまざまの事情を紹介し,考察すべき焦点について,いく つかのヒントを提示できればと思う。 「24 時間オン」と,不潔恐怖 社会生活を送っている人にとっては, 「仕事を引き受けずに家にいること」は,オフを意味す る。それゆえ「ひきこもりはずっとオフなんだろう」と想像されるのだが,これについては不 潔恐怖と洗浄強迫の比喩が役に立つ。 ひきこもっている人の一部には,2ヵ月ほども風呂に入らない人がいるが,これはふつうに 考えれば単なる「ルーズさ」に見える。しかし実態は違っている。一日中手洗いなどをやめら れない「洗浄強迫」と呼ばれる強迫症状に