私が日本に移り住んだ2003年、日本は長期の経済的衰退から向け出そうと模索していた。「失われた10年」は終わらず、日本経済の低迷は次の10年、その次の10年も続いた。 長雨に見舞われた03年の梅雨時、私の憂鬱(ゆううつ)な気分は一向に晴れなかった。まだ20世紀だった1989年12月29日、日経平均株価は3万8915円87銭の史上最高値を付け、日本経済は歴史的なピークに達した。しかし、それ以来、日本経済は停滞し続けた。 私が世界最大の都市、東京に来た時の上空を覆っていた重苦しい梅雨前線がそうした日本の状況を象徴しているかのようだった。それでも、何とも言えない停滞感はすぐには感じなかった。 広島で英語を教える交換プログラムの一員として来日した私は、アイルランドで幼少期を過ごした。世界各地に住む私と同世代の多くの人々と同様、日本に住み始めるずっと前から洗練され技術的にも進んでいた日本の文化に触れ