うだるように暑い8月の昼下がりだった。信号待ちしているだけで、どっと汗が噴き出す。道の向こうに見える風景が蜃気楼のように揺れていた。 だが、用意していた対談の会場に着くと、灼熱の外界とは切り離された空気と時間が流れていた。 そこは昭和30年に建てられた都内にある古い平屋の住宅だ。引き戸を開け放つと、広々とした庭の緑が目に涼しい。岩に染み入ってなお溢れ出してきそうな蝉の声が現実感を失わせ、どこか遠い昔にタイムスリップしたような感覚に陥る場所だった。 ADVERTISEMENT 先に中村太地七段が姿を見せた。白いTシャツにセットアップのジャケパンスタイル。そうと知らなければ、スタートアップの創業者のような現代的な佇まいだ。 「アン・ドゥムルメステール」の黒のマスク 冷たい麦茶を飲みながら、もう1人の到着を待つ。対談の相手はファッションやクラシック音楽などに造詣が深い“貴族”佐藤天彦九段である。
![佐藤天彦と中村太地の未公開縁側トーク 藤井聡太の逆転は本当に“逆転”か?(雨宮圭吾)](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/2ff4be6283ffd5e3559b7be2619c4fedfe5b5950/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fnumber.ismcdn.jp%2Fmwimgs%2Fc%2F5%2F-%2Fimg_c55ce97d526e38e60d1d20e0f7713368190201.jpg)