ついさっき結婚を約束したばかりの僕と初音は、降りしきる雨のなかを歩いていた。 (あれ、いったい僕たちは、どこへ行こうとしているんだろう?) 傘を打つ雨音で、ふと我に返る。 フレンチレストランでプロポーズして、初音が承諾してくれたあと、極度の緊張から解放され、安堵感で夢心地になっていたらしい。 ほどなくして、あずまやのある公園に着いた。 傘をたたんで屋根の下に入り、ベンチに腰掛ける。規則的に植えられた木々の向こうに、高層ビル群の明かりが美しい。 横顔を見せたまま、初音が言った。 「昔話をひとつ、聞いてくれますか? 私の家に伝わる話で、母から娘へ、代々というより転々と、語り継がれてきた昔話」 唐突さにとまどいながら、僕はうなずいた。 △ ▲ △ ▲ △ 昔、ある村に古いお社(やしろ)がありました。 村じゅうの人びとが集まる秋祭りでは、夜通し、かがり火がたかれ、さまざまな奉納舞が行われます。 宝